「あっつい!」
只今、一日のうち一番暑い時間帯、午後の2時。
今日は5時間目は自習でみんな思い思いに過ごしている。友達と話してたり、何人かは読書や勉強もしてる。
周りを観察しているといきなり頭にばさっと山のように教科書が降ってきた。
「痛っ!」
反射的にそう言うと、目の前には頬ずえをつく神田ユウ。少し口を緩ませてる。
「何すんのさ!こちらとて暑くて死にそうだっていうのに、彼氏のキミはこんなことして楽しいの?」
後半嫌みたっぷりに言ってみる。
「バーカ。いつから俺はお前の彼氏になったんだっての。」
そう言って今度はこつんと軽く私の頭をごつく。手加減ないな…
「いいじゃん!あたしユウの事好きだもん。」
冗談っぽく言うけど、実はこれ、本当だったりするんだけどな。でも相変わらずユウは顔色一つ変えないで
「ふぅ。」
ため息一つ、だけどその後に
「オイ。」
「何さ、ユウ。」
「今日、お前の部活終わるの待っててやるよ。」
「……え?」
「だから、お前の部活終わるの待ってるってんだよ。」
「生徒会と剣道部は?」
「今日は部活終わるのも早いはずだし、生徒会の仕事も無い。だから、待ってる。」
「えっと、それはつまり一緒に帰ってくれるってこと?」
「…」
答えない、でも多分これは肯定。
「じゃあ、昇降口あたりで待っててね!」
「あぁ。」

放課後になる。辺りはオレンジ色に包まれていた。
部活も終わってもう下校時刻だ。

「ユウ、ユウっと。」
辺りをきょろきょろと探す。すると、何メートルか先にユウの姿が見えた。
「ユーウっ!」
大きな声で呼んでみる。するとユウは直ぐに気づいてくれて少しずつ私との距離を詰めていった。
「五月蠅い。さっさと帰るぞ。」
そういいながらも私に歩幅を合わせてくれてるユウ。そんな行動すらも愛しく感じる。
私は今日の出来事をユウに話す。廊下でのことも、教室でのことも、些細なことも。
それはまるで子供が両親に精一杯話している姿を思わせるかのように。
「あのね…それで…」
「なぁ」
話を途中で区切られて驚いたけどユウが話してくれるのは数少ないから。
「何?ユウ。」
「俺等、もう友達やめにしねぇ?」
「え?それってどういうこ…」
続きの言葉を紡ごうとしたら、
私の顔に僅かにユウの柔らかいサラサラの髪が当たって。
そしていつも以上に近すぎるユウの顔、唇には人肌の暖かさ。
これは…

「こういうこと。」
いつも以上に低い声で、私の耳元で囁いて。
私は顔を真っ赤にして、妙に色っぽいユウの顔と自分の唇を確かめる。
「今のって…」
「何なら、もう一回するか?」
ニヤリと口角を上げるユウ。
悔しい、けどかっこいい。だけどやっぱり悔しいから、お返ししてやるんだから!


背を伸ばして、そっとキスをする

(本当はずっとこうしたかったの!)


081119(友情から愛情へ。その変わり目はきっと小さな出来事から)


SNOW DROP管理人様、那智さんに捧げます!